20歳女性にアルコール飲料やワニ肉を食べさせゲロを吐かせた疑いのある男の手記
7月某日。未明。
僕たちは暖かくなったばかりの夏の夜風に吹かれながら、津田沼駅の階段に腰を下ろしていた。
昨年二十歳になったばかりの妹は、僕の隣で寝息をたてている。しかし、こんなにお酒弱いとは。
もう十二時もとっくに回っているというのに、時々狂乱の宴から漏れる絶叫が繁華街にこだました。
妹はかれこれ30分も寝ている。このままここで朝を迎えるのだろうか、と思った。
明後日から妹は作業療法士の実習がある。
その実習を終えると、作業療法士の国家資格の試験と就活が始まる。
ついこの間まで、家のなかでも外でも金魚のふんみたいにくっついてきたあの幼き妹は、もうすぐ大人になってしまう。僕たち三兄弟の最後の子供が大人になる。
妹がまだ学校に通っているというのは、なんだか僕もまだ子供時代に繋がりがあるような感覚があった。もちろんそれは錯覚だけども、妹から学校の友達や授業の話を聞いているとひょっとしたら、ふとしたきっかけで僕もまた子供だった頃に戻れるんじゃないかと、バカなことを考えてしまう。
妹が大人になることで、子供時代を一緒に過ごした僕たち三兄弟はみんな知らない大人に変身てしまうんじゃないか。子供時代の出来事は起きたらすぐ忘れてしまう夢みたいに、すっかり消えてしまうんじゃないかとちょっと考えて頭をふった。眠い。
僕とあまり年の変わらなさそうな男が女の子二人をつれてタクシー乗り場まで歩いていった。
僕の膝を枕がわりに寝てる妹と、疲れた顔で背中をさする僕は彼らの目にはこのあたりではありふれた光景なのだろうか、一瞥もくれずに通りすぎていった。
終電を過ぎて駅でたむろしている人たちというのは、僕の日常生活にはまったく現れず、たまたま見かけてもなるべく関わりを持たないように目をそらして過ごしていたというのに、今ではその忌諱していた風景の一部として僕たち二人はすっかり馴染んでしまった。
姉は今年の4月にそれは幸せそうな式をあげて一人の妻となり、僕は路頭に迷ってたところを社長に拾ってもらい曲がりなりにもサラリーマンをやって、妹はもうすぐ国家資格をとって作業療法士として働き始める。
みんな子供時代を同じ場所ですごし、育っていった。
これからどうなるだろう。兄妹じゃなきゃ、人妻や作業療法士と仲良くなる機会なんかありはしない。
僕ら三兄弟の最後の子供は大人になり、僕にとっての子供との繋がりはもすぐ絶たれる。
そのうち子供時代より大人として生きる時間が長くなって、姉も妹も僕もみんな変わっていってしまうのかな。
妹が目を覚まして、僕の住んでる部屋に着いたら二日酔いの薬とお水を飲ませてゆっくり寝かさなきゃ。明後日の実習に響くようなことがあったら大変だ。
でも、このまま夜も開けず妹も大人にならなければ良いのにな。僕は子供のままの妹の背を支えつつ、永久に夜は空けないままで。